研究内容
有機化学部門
世界の食糧の安定生産に貢献するため、高い安全性と環境適合性を持ち、効果の高い農薬の開発を目指しています。また、近年では、医療分野や動物のヘルスケアを対象とした商品開発も行っています。ユーザーのニーズに的確に応える商品開発を目指し研究開発に取り組んでいます。
バイオサイエンス分野
「将来の人口増加に備え、世界の食料を安定的に確保するために、農薬は大変重要な資材として位置付けられる」という共通認識を持ち、安全性が高く効果的な農薬の開発を目指して日々研究開発に取り組んでいます。
私たちが新しく見出した農薬は、その世界的な開発を通して食糧の安定生産に貢献すると同時に、使用者の労働作業軽減にも役立っています。また、徹底した安全性評価は、安全で使いやすく環境にやさしい薬剤の各国での迅速な登録取得に繋がっています。
このような努力は、数多くの薬剤の世界各国での開発・登録・商業化・販売という形で実を結んでいます。
研究分野・体制
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開発ストーリー
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バイオの技術で実現した
世界初の青色コチョウラン自然界に存在しない幻の花として、長年にわたり追い求めた青いコチョウラン。当社独自の技術を活かし、15年以上にわたって研究を重ね世界唯一の青色コチョウラン「Blue Gene®(ブルージーン)」の開発に成功しました。
幻の「青いコチョウラン」実現を目指し長期プロジェクトがスタート
白やピンク、黄色など美しい色で人々の目を楽しませるコチョウラン。華やかな見た目に加え、花が咲くまでに4年以上の歳月がかかることから、特別な贈り物として人気を集めています。
様々な色がある中で、天然では存在しなかったのが青いコチョウランです。実は、コチョウランは青色色素(デルフィニジン型アントシアニン)を生成する遺伝子を持っていません。これまでにも白いコチョウランに染色液を入れ、青色に加工したコチョウランはありましたが、あくまでも人工的なものです。そのため、生まれながらに青いコチョウランは多くの人々が待ち望む存在となっていました。
当社が青いコチョウランの開発を始めたのは2005年です。動物用医薬品「ブレンダ®」の原型となる化合物の薬理試験などで経験を積んだ研究者が中心となり、それらの研究から得た技術を応用して、植物の遺伝子組み換えに挑戦しました。
植物種と青色遺伝子の間には相性があり、相性の悪い遺伝子をコチョウランに入れても、青色色素は作られません。相性の良い遺伝子が見つかるまでにどれくらいの時間が必要かわからず、さらに導入しても花が咲くまでに4年が必要です。研究が長期にわたるのは覚悟の上で、天然の青色遺伝子を持つ植物を用いて相性を試していきました。
2006年には、花きの遺伝子組み換えの分野で高い実績を誇る千葉大学との共同研究がスタート。当社の業績悪化による研究の一時中断というアクシデントを乗り越え、2013年からは当社単独で研究開発を続けました。17年をかけて誕生気高く鮮やかな青色コチョウランを次世代につなぐ
相性の良い遺伝子を見つけるために試行錯誤する中で、当社の研究員がたどり着いたのが美しい青色が印象的なツユクサの栽培品種アオバナでした。アオバナは中央研究所が所在する滋賀県草津市で古くから栽培され、市の花にも指定されています。古くは友禅染の下絵描きに利用されてきました。アオバナの青色の鮮やかさに着眼し、その原種であるツユクサの青色遺伝子を使用した結果、コチョウランと非常に相性が良く、見事に鮮やかな青色コチョウランの開花に至りました。
有毒性の有無や野生種との交雑の危険性など数十項目にわたる検査もクリアし、2021年、ついに国の承認(※)を取得。社内投票で「Blue Gene®(ブルージーン)」と名付けられた青色コチョウランは、歴史ある「世界らん展」や「ジャパンフラワーセレクション」などのイベントで高い評価を得て、更には業界として消費者に最も推奨できる新品種に与えられる、「日本フラワー・オブ・ザ・イヤー2022(最優秀賞)」を受賞しました。
今後も「Blue Gene®」のサイズアップや青色コチョウランを母体とした青色系コチョウラン品種の展開、さらには、他の花へのツユクサ由来遺伝子の導入など多様化を向上させつつ、花の寿命を延ばす研究など、新たな課題に挑戦し続けます。(※)遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律第4条第1項の規定に基づく第一種使用規定の承認
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画期的な生物農薬が、持続可能な農業へ貢献
環境問題や食の安全に対する人々の関心の高まりによって、近年ますます注目されている生物農薬。長年にわたり農薬の研究開発を手掛けてきた当社は現在、生物・微生物農薬製品として「チリガブリ®」「アカメ®」「ミヤコバンカー®」「スワルバンカー®」「スワルバンカー®ロング」「ミニタン®WG」を販売しています。
化学農薬を補完する、生物農薬の開発に着手
生物農薬は自然界に存在する昆虫や微生物、菌などを生きた状態で製品化した、環境に優しい農薬です。当社は2000年前後から開発を進めてきました。
IPM(総合的病害虫雑草管理 ※1)分野は、今後国内外において成長が期待されるため、当社が化学農薬製品に加えて生物農薬製品を開発することは、国内外の拡販につながる有力な戦略の一つです。当社の化学農薬は開発中のものも含めてそのほとんどが生物農薬と相性が良く、また親環境・安全農薬の開発・商業化にも積極的に取り組んでいます。これらを組み合わせた当社独自のIPM体系を構築し、環境負荷が少なく安全性が高いだけではなく、真に効果的な病害虫防除技術体系を実現することを目標としてきました。薬剤抵抗性の発達を回避し、当社化学農薬をより長く使っていただけるようにするためにも生物農薬の開発と普及は価値があると考えています。-
※1さまざまな技術を組み合わせて被害水準以下に管理すること
化学農薬と生物農薬、ICM技術の併用で、人と自然にやさしい農業を実現
ナミハダニを捕食中のミヤコカブリダニ当社の生物農薬研究グループは、バンカーシート®の開発に成功、2016年に上市しました。バンカーシート®技術とは、小さなパックに生きたまま詰めた害虫の天敵をバンカーシート®(耐水紙製の箱)にフェルト、吸水性樹脂とともに入れ、天敵を保護する装置です。バンカーシート®は内部の湿度の変動を小さくして安定化し、封入される吸水性樹脂は内部の湿度を高くする働きがあります。バンカーシート®が提供する天敵にとって好適な環境は、激しい環境変動(低湿度や降雨など)に曝される圃場において天敵の定着を助けることになります。バンカーシート®の実用化技術は農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(26070C)で確立しました。開発の成功により、ハダニ類を捕食するミヤコカブリダニ製剤とバンカーシート®をセットにした「ミヤコバンカー®」を2016 年末に、さらにアザミウマ類、コナジラミ類等を捕食するスワルスキーカブリダニとバンカーシート®をセットにした「スワルバンカー®」を2017 年春に、それぞれ商品化しました。2022年には、「スワルバンカー®」の性能を強化した「スワルバンカー®ロング」が完成。従来品に比べ天敵の放出期間を長くすることで、安定した害虫防除効果が期待できます。このようなバンカーシート®の開発・普及に対して、「令和4年度民間部門農林水産研究開発功績者表彰 農林水産技術会議会長賞 民間企業部門」および「園芸研究功労賞」を受賞しました。
普及途上の果樹分野においては、バンカーシート®技術と果樹園に生息する土着天敵を組み合わせたw天敵防除体系(※2)を確立しました(イノベーション創出強化研究推進事業 (28022C))。この普及・展開により、「令和3年度 気候変動アクション環境大臣表彰 開発・製品化部門/適応分野 大賞」を受賞しました。(※3)
2022年2月には、開発研究グループをIPMからICM(総合的作物管理)へと進化させ、生物農薬にとどまらず作物管理という広い視野で研究開発に取り組む新たな一歩を踏み出しました。これにより新たな生物農薬やその利用技術の改良のみならず、親環境・安全農薬の開発をいっそう進め、さらにバイオスティミュラント資材の開発にも挑戦し当社独自のICM技術の開発によって、持続可能な農業の実現に寄与していきます。(※2)w天敵:果樹類に対し「土着天敵(元からそのエリアに生息する天敵)」と「天敵製剤」をダブルで活用し、殺ダニ剤への依存を大きく減らしたハダニ防除法
(※3)「令和3年度気候変動アクション環境大臣表彰」受賞標章
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農業の未来を担うバイオスティミュラント
「ライスフル®」を開発。
独自の技術で、猛暑に強いコメ作りを実現暑さが年々過酷になる近年の夏、高温によるイネへのダメージが問題になっています。そんな中、当社は高温に負けないコメ作りを実現する商品開発に着手。独自の技術により、世界中で注目を集める新しい農業資材「バイオスティミュラント」を活用した「ライスフル®」が完成しました。
バイオの力で、酷暑に負けないコメ作りを目指す
近年、水稲の生育期間における高温化傾向が顕著になっています。登熟期(出穂期から成熟期)に高温にさらされた水稲から取れる玄米は、外観や品質、味、食感などが低下するというデータも報告されています。
水稲の高温障害を低減するため、これまでも高温に耐える品種の創出や、栽培管理によって高温を回避する技術開発などが行われてきました。しかし、そういった既存の技術だけでは改善が難しい状況になっています。
そこで当社は、高温障害を低減する製品を開発するべく、暑さや乾燥などの厳しい非生物的ストレスに対し、植物の抵抗力を向上させ本来のポテンシャルを引き出す「バイオスティミュラント(Biostimulant:生物刺激剤)」に着目。当社独自の技術提供を目指し、研究開発を進めてきました。バイオスティミュラント開発における「2つの壁」
開発にあたり2つの大きな課題がありました。1つは、国内でバイオスティミュラントを規定する法整備がなされていないため、商品化に向け社内で性能、安全性、製品規格などの基準を決めなければならなかったことです。生産者や消費者の皆様に安心して使っていただけることを最優先に、農薬開発で培った技術に基づき、関係部署で議論を重ね当社が必要と考えるデータを取得していきました。
もう1つは、バイオスティミュラントの作用機序(製品が効果を及ぼすメカニズム)の解明が非常に難しいことです。病気や害虫などの生物的ストレスに直接作用する農薬と異なり、イネそのものが本来持つ抵抗力の向上に働きかけるバイオスティミュラントは、作用機序が一般に非常に複雑ですので明確化に長い時間がかかります。
年次変動で「実は高温ストレスがそれほど過酷ではない環境だった」などのミスマッチがあれば、効果効能がわかりにくいケースもありえます。効果効能がわかりにくいと、生産者の方々に製品の利用価値が伝わりません。そこで私たちは何年も繰り返して試験を実施して効果効能を実証し、また作用機序の解明に注力してきました。そして、玄米の品質改善の程度が農業生産者の方々の収益につながることを入念に、繰り返し説明しながら社内で開発提案を行いました。このように、バイオスティミュラントの特性を考慮しながら、これまでにない視点で研究を進めたのです。技術の進化により「ライスフル®」誕生、さらに広がる可能性
試行錯誤を経て、当社独自の技術を活かしたバイオスティミュラント「ライスフル®」が完成。2023年3月に販売を開始しました。
「ライスフル®」は植物から抽出された、食品にも使用されている成分でできており、使い方は育苗箱に希釈液を散布するだけです。
発売に先駆け、コメ農家の方々を対象に「ライスフル®」プレゼントキャンペーンを実施したところ、予想を上回る多数の応募や反響があり、水稲の高温ストレス緩和に対する関心の高さがわかる結果となりました。
「ライスフル®」の開発により、当社の製品ラインナップに新しくバイオスティミュラント製品が追加されました。これからも「ライスフル®」の効果的な使用方法の拡充や製品ラインナップの充実など、さらなる進化と挑戦を続けていきます。
現在販売中の当社で創製された農薬(一般名、日本商品名、日本登録年の順に記載)
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ピラゾキシフェン 「パイサー®」 1985年
ワンベスト®、ワンオール®、トビキリ®ジャンボの母剤。農作業の省力化に応え、広範囲の雑草を長期間にわたって抑える混合剤を提供。
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フルアジホップP‐ブチル 「ワンサイド®P」 1986年
一年生から多年生に至るまで、広範囲なイネ科雑草に対して強力に作用。ダイズ、ワタ、ビートなどの広葉作物栽培畑で世界的に使用。
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フラザスルフロン 「シバゲン®」 1989年
スルホニルウレア系の除草剤。果樹園ならびに暖地型芝地や非農耕地を対象に、極低薬量で広範囲な雑草の長期防除が可能。
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ニコスルフロン 「ワンホープ®」 1994年
スルホニルウレア系のトウモロコシ専用の茎葉処理剤。イネ科雑草および広葉雑草を同時に防除できる。日本のほか、ヨーロッパ、中南米など世界の主要市場において高い評価。
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トルピラレート 「ブルーシア®」 2016年
白化型のトウモロコシ用茎葉処理剤。飼料用トウモロコシに優れた選択性を示し、一年生イネ科および広葉雑草を同時に防除可能。日本では飼料用トウモロコシに続き食用トウモロコシとしても登録を取得し販売中。米国およびカナダで登録取得済、欧州、中南米、アジア諸国で開発推進中。
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フルアジホップP‐ブチル 「ワンサイド®P」 1986年
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クロルフルアズロン 「アタブロン®」 1988年
昆虫の表皮に含まれるキチンの生合成を阻害する作用を持つ昆虫成育制御剤(IGR剤)の草分け的存在。チョウ目、アザミウマ目やカメムシ目の幼虫に高い殺虫力。
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ホスチアゼート 「ネマトリン®」 1992年
低毒性有機リン系殺線虫剤。低濃度で線虫の各発育ステージに有効な非くん蒸型薬剤。適度な土壌残効性を有す。植物体内で優れた浸透移行性を有することから、土壌処理でハダニ類、アザミウマ類、コナジラミ類などの地上害虫にも有効。
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フロニカミド 「ウララ®」 2003年
天敵や訪花昆虫に影響が少なくIPMに適合した殺虫剤。吸汁性害虫(カメムシ目やアザミウマ目)、特にアブラムシに高い活性を有する。吸汁行動を阻害することによって防除効果を発揮するユニークな作用。作用機作は既存剤と異なり抵抗性系統にも有効。
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シクラニリプロール 「テッパン®」 2017年
各種チョウ目害虫に加え、コウチュウ目、アザミウマ目、ハエ目、カメムシ目などに活性を有し、幅広い殺虫スペクトラムを有するアントラニルアミド構造を有するジアミド系殺虫剤。野菜、果樹、茶、水稲、大豆など広範な作物を対象に世界各国で開発中。2018年2月時点で、韓国、米国、カナダ、日本で登録取得済。
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クロルフルアズロン 「アタブロン®」 1988年
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フルアジナム 「フロンサイド®」 1990年
幅広い殺菌スペクトルを有するピリジナミン系の保護殺菌剤。他剤に感受性が低下した病害や難防除の病害(果樹紋羽病、アブラナ科野菜根こぶ病ほか)にも有効。殺ダニ活性もあり。日本のみならず、海外(ヨーロッパほか)でも高い評価(ジャガイモ疫病など)。
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シアゾファミド 「ランマン®」 2001年
フェニルイミダゾール系骨格を有する殺菌剤。選択性が高く、植物病原菌の卵菌綱(べと病、疫病)およびネコブカビ綱(アブラナ科野菜の根こぶ病)に有効。新規な作用機構(ミトコンドリア内の電子伝達系ComplexIIIのQiサイトを阻害)。
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ピリオフェノン 「クロスアウト®」「カッシーニ®」 2013年
各種のうどんこ病に卓効を示すベンゾピリジン系殺菌剤。細胞骨格の1種であるアクチン重合に影響すると考えられ、不完全な細胞壁生合成や、吸器形成の抑制、不完全な胞子形成を示す新規な作用機構を有する。
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イソフェタミド 「ケンジャ®」 2017年
灰色かび病や菌核病を中心に、果樹や野菜の幅広い病害に効果を示す広いスペクトラム殺菌剤。作用機構はミトコンドリア電子伝達系のコハク酸脱水素酵素阻害(SDH阻害剤)。同じ作用機構の他系統の薬剤に感受性が低下した菌株にも効果を示す。
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フルアジナム 「フロンサイド®」 1990年
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「バンカーシート®」と、2種類の天敵カブリダニをそれぞれセットにした製品「スワルバンカー®」「スワルバンカー®ロング」「ミヤコバンカー®」、アザミウマ類を捕食する在来天敵「アカメ®」、ハダニ類を捕食する「チリガブリ®」を販売中。なお、「バンカーシート®」は化学農薬や環境変化の影響から天敵を保護し、天敵を長期間放出できる簡易型組立資材で、農食事業26070Cで実用化技術が確立された。
ヘルスケア分野
動物用医薬品
当社がこれまで培ってきた新農薬創製技術を活かし、ペットの生命・健康を守る画期的な動物薬の開発に取り組んでいます。
現状、獣医師が使うことが出来る動物用医薬品は、人体用医薬品と比べ、分野、種類とも限られています。そのため、臨床場面では獣医師の裁量により、人体用医薬品が適応外使用される実態があります。
しかし、人と動物とでは薬剤に対する感受性や代謝に違いがあり、人体用医薬品の動物への使用はしばしば重大な事故につながるなど、大きなリスクを孕んでいます。
当社は、臨床現場でのこうしたリスクを低減するとともに、家族の一員ともいえるペットの健康な生活を守るべく、既存の動物用医薬品が存在しない疾病領域を中心に、獣医師やペットオーナーの皆様のニーズに合致した新薬の創製を目指します。
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フザプラジブナトリウム | 製品概要 | イヌ用抗膵炎剤「ブレンダ®」2021 年4月より国内発売開始。2022年11月に「PANOQUELL®-CA1」が米国FDAより条件付き承認を取得。 炎症に関わる細胞接着分子の活性化を阻害し、炎症部位における白血球の接着及び浸潤を抑制する新規な作用機序を有する抗炎症薬。 |
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臨床開発 | 国内のみならず、世界中のペットオーナーと動物医療従事者のもとへ届けるべく、現在は世界各国で臨床開発中。 | |
適応拡大 | フザプラジブナトリウムが有するユニークな作用機序から、他の炎症性疾患への適応が期待される。 |